「おぅ、すっかり日も暮れてしもうたのぅ。うん。今日はここで休むとしよう。」
あたりはすっかり暗くなっていました。 たんすどんの周りにいた人たちも、それぞれの家に帰ったのでしょうか、気付けば、みな、いなくなっていました。
「よー、あるいたわぃ。さすがにつかれたのぅ。どら、あの木陰で休むとするかのぅ。」
「うーん、懐かしい匂いじゃ、木の、土の、うーん、懐かしいええ匂いじゃのぅ。こりゃ、よう、眠れそうじゃ。うん。」
たんすどんが、空を見上げると、瞬く星が満天に広がっています。
「きれーじゃのぅ、ほんにきれーじゃー・・・・・」
その夜、たんすどんは夢を見ました。夢というよりは、昔を思い出したのかも知れません。 たんすどんが生まれる瞬間を見たのです。
たんすどんのお父さん、たんす職人の源さんが、一生懸命たんすどんをつくっています。
こころを込めて、丁寧に丁寧に。
少しずつ、たんすどんになってゆきます。
いよいよ、出来上がり、きれいに、きれいに磨きがかけられました。源さんが得意そうな顔で、たんすどんをぽんぽん叩きながら言いました。「よし、ええできじゃ。一丁あがり。」
「チ、チ、チ、チ、ちゅん、ちゅん。」
とても気持ちのよい朝です。周りにはうっすらと霧がたちこめ、木々の匂いに、一層命を吹き込んでいるかのようです。
「夢か・・・・・。わしゃ、とっても愛されて、この世に生まれたんじゃなぁ。」
「チ、チ、ちゅん、ちゅん。」
たんすどんは、しばらくの間、その輝く空気を胸いっぱいに吸い込みました。